DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に換算し、企業価値を評価する手法です。
M&Aや投資判断で多用され、事業計画に基づく将来予測とリスク調整が特徴です。
将来キャッシュフローの予測
DCF(割引キャッシュフロー)法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在の価値に換算して企業価値を評価する手法です。
主にM&Aや投資判断で用いられ、将来の不確実性を「割引率」で調整する点が特徴です
フリーキャッシュフロー(FCF)の本質
企業が「自由に使える現金」を表す指標で、以下の要素から構成されます。
FCF = 営業利益 × (1 - 税率) + 減価償却費 - 設備投資 - 運転資金増加額
実務上のポイント
設備投資
工場拡張やITシステム更新など、将来の成長に必要な投資
運転資金
在庫増加や売掛金回収期間の延長で発生する資金の拘束
具体例
年商10億円の企業が1,500万円の設備投資を行う場合、FCFは直接減少
予測の難しさ
3年ルール
詳細な事業計画がある3年後までを「予測期間」とし、以降は簡略化するのが一般的
シナリオ分析
楽観案・悲観案を想定(例:新規参入が成功した場合/競合が価格競争を仕掛けた場合)
割引率の設定
WACC(加重平均資本コスト)の仕組み
資本コストを「負債」と「自己資本」の比率で加重平均
WACC = (負債コスト × 負債比率) + (株主資本コスト × 自己資本比率)
構成要素の解説
要素 | 内容 | 計算例 |
---|---|---|
負債コスト | 借入金利 × (1 – 税率) | 年利3% × (1-30%) = 2.1% |
株主資本コスト | CAPMモデルで算出 | 無リスク金利2% + β値1.2 × リスクプレミアム5% = 8% |
リスク調整の具体例
企業タイプ | 想定割引率 | 根拠 |
---|---|---|
スタートアップ | 15-20% | 事業リスクが極めて高い |
成熟企業 | 6-8% | 安定した収益が見込める |
現在価値の算出
時間価値の概念を図解
現在価値 = 将来キャッシュフロー ÷ (1 + 割引率)^年数
数値例で見る「お金の目減り」
年数 | 100万円の現在価値(割引率10%) |
---|---|
1年後 | 100 ÷ 1.10 = 90.9万円 |
5年後 | 100 ÷ 1.61 = 62.1万円 |
10年後 | 100 ÷ 2.59 = 38.6万円 |
実務上の工夫
ステップ計算
毎年のFCF変化を反映(例:新製品リリースで3年目にFCFが急増)
敏感性分析
割引率を±2%変化させて価値変動幅を確認
残存価値(ターミナルバリュー)
永久成長モデルの仕組み
残存価値 = 最終年度FCF × (1 + 成長率) ÷ (割引率 - 成長率)
成長率設定のポイント
上限ルール
成長率は長期名目GDP成長率を超えない(通常1-3%)
具体例FCF=1億円, 成長率2%, 割引率8%
→ 1億×1.02÷(0.08-0.02)=17億円
代替計算方法
方法 | 式 | 特徴 |
---|---|---|
EV/EBITDA倍数 | 最終年度EBITDA × 業界平均倍数 | M&A実務でよく使用 |
清算価値 | 資産売却価格 – 負債 | 事業継続を前提としない |
実務適用時のポイント
メリットの活かし方
戦略的買収
シナジー効果をFCFに反映(例:統合で年間5億円のコスト削減)
事業評価
部門別にFCFを計算し、不採算部門の切り離し判断
リスク管理手法
1.モンテカルロシミュレーション
入力パラメータを確率分布で表現
2.クロスチェック
類似企業の株価倍率(PER/PBR)と比較
3.サンクコスト排除
既に投じた費用は計算に含めない
よくある落とし穴
楽観的予測
営業部門の売上目標をそのまま採用しない
割引率の誤用
プロジェクトリスクと企業リスクを混同
運転資金の過小評価
成長に伴う在庫増加を見落とす
補足:DCFモデルの進化形
モデルタイプ | 特徴 | 使用場面 |
---|---|---|
APV法 | 負債の税盾効果を分離計算 | レバレッジ変化が激しい企業 |
リアルオプション | 経営の柔軟性を価値化 | R&Dプロジェクト評価 |
確率モデル | シナリオ別確率を設定 | 規制リスクのある業界 |
このようにDCF法は単なる計算式ではなく、企業の「未来戦略を数値化するアート」とも言えます。実務ではExcelモデルを作成し、主要パラメータを変化させながら「価値の感応度」を分析することが重要です。
まとめ
この手法の核心は、将来の収益を「割引率」で現在価値に変換する点にあります。
企業価値は予測キャッシュフローの合計と残存価値(ターミナルバリュー)で構成され、WACC(加重平均資本コスト)を用いた割引率設定が成否を分けます。
M&Aでは、市場変動に左右されない本質的価値の評価ツールとして、特に上場企業で重視されます。
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